音楽が、人とつながるための言葉だった。7月19日、ピアニストの紀平凱成(きひらかいる)さんが飛騨地域では初のホールコンサートを下呂市で開く。自閉症の特性を持ちながら、全国で演奏活動を続ける凱成さん。その歩みについて母親の由起子さんが語ってくれた。
「家の中にはいつも音楽がありました」と振り返る通り、幼い頃から楽器に囲まれて育った。家にはエレクトーンやドラム、ギター、三線(さんしん)などがあり、それらが遊び道具だったという。言葉を覚えるより先に歌を口ずさみ、2、3歳の頃には観ていたアニメの曲をエレクトーンで弾きながら歌っていた。
「耳で聞いた音をそのまま探して弾いていた」という凱成さんに、コードを教えてみるとすぐさま覚え、いつしか風の音や鳥の声なども音符で書くようになり、幼稚園では伴奏を頼まれるほどに。言葉でのコミュニケーションが難しい場面でも、音楽が周囲との橋渡しになった。「音楽があれば人とつながれたんです」。そのよろこびが、凱成さんをピアニストになることへ導いた。
凱成さんの演奏は、「1人の世界へ没入する」というよりは、音楽を通して会話をしているように見えるという。コンサートでも客席によく視線を向け、拍手を求めたり、一緒に空気を作ろうとしたりする。人に会うと、その人や訪れた場所から音楽のイメージが浮び、演奏へと昇華される。その即興演奏の技術は高く評価され、共演した音楽家たちから驚かれることも多いそうだ。言葉にしきれない思いが、凱成さんの奏でる音には乗っている。
一方で、音楽人生は決して順風満帆ではなかった。小学5年生の頃から、突然強い聴覚過敏に悩まされるようになる。日常の音だけでなく、自分が弾くピアノの音さえ苦痛になる時期が続き、イヤーマフを手放せるまで7、8年ほど要した。「正直、親としては諦めかけていました」。それでも凱成さんは、ピアニストの夢を諦めなかった。「ピアニストになりたい、自分の演奏で人をよろこばせたい、その思いだけで乗り越えてきたんだと思います」。
今回の下呂公演は紀平さん親子にとって特別な意味を持つ。母親の故郷である飛騨は幼い頃から何度も訪れた土地。「いつかこの場所でコンサートを開きたい」という思いを抱いてきた。4月にホールの下見に訪れた際には笑顔になる一面も。自作曲やディズニーメドレー、JAZZやクラシックの名曲、尊敬する現代作曲家のカプースチンの楽曲と幅広いレパートリーを準備しているとのこと。凱成さんとの会話を楽しむように、その演奏を聴きに行きたい。
about
Echoes of Hida~風の記憶~
岐阜県下呂市森2270-3(Google map)























