静かに筆を運ぶその手に、長年積み重ねてきた時間が宿る。〈渋草焼柳造窯〉六代目・戸田宗四郎さんは、飛騨の地で作陶を続けてきた陶工であり、いま傍らではその背中を見て育った七代目・戸田鉄人さんが、その仕事を受け継いでいる。
昨年11月、宗四郎さんは「現代の名工※」に選ばれた。この受賞を記念して、5月に高山市内での展示が企画されている。会場は高山駅改札内ショーウィンドウ、市役所1階の展示スペース、そして祝賀会の会場でもある〈本陣平野屋 花兆庵〉。いずれも人の往来の中で作品に出会える場所だ。
展示の軸にあるのは、「継承」と「革新」。宗四郎さんは近年、新たな表現にも向き合っている。家族の介護という時間を通して、自身の内面と向き合う中で生まれた変化。それはこれまでと同じ意匠であっても「いまの自分が描くもの」として、異なる表情を持ち始めている。「夜明け」をモチーフにした新作の構想も、その延長にあるという。
一方の鉄人さんも、父の技術を学び直しながら自らの表現を模索している。大壺を薄く引き上げる高度なろくろ技術や、緻密な線描など、長年の鍛錬によって培われてきた技術を一つひとつ習得しながら、自分の作品として立ち上げていく過程にある。そんな次世代の1人として、この展示に彼の作品も並ぶ予定だ。
〈渋草焼柳造窯〉はここ数年、これまでの制作やブランド展開からいったん離れ、体制の変革期にあったという。純粋な作品制作と研究に軸足を移すための決断だった。いまは「つくること」そのものに立ち返っている彼らの根底にあるのは、「仮説・実験・検証」を繰り返す姿勢だ。自ら山を歩いて土を探し、釉薬は配合を何度も試しながら記録を積み重ねる。ろくろ、絵付け、焼成に至るまで、1つの工程にとどまらず、すべてを自らの手で担う。
宗四郎さんが「工芸は探求」と語れば、鉄人さんは「工芸は研究」と捉える。言葉は違えど、その本質は連続した試行錯誤の中にある。
今回の展示は、作品を販売するためのものではない。あくまで工芸の価値とその奥行きを伝えるための場だ。木工以外の工芸への関心が薄れつつある高山で、制作の姿を「見せること」によってもう一度地域に認知を広げていく試みでもある。父が積み重ねてきた時間と、子がこれから重ねていく時間。その交差点にあるいまを切り取る展示は、単なる受賞記念にとどまらない。伝統を受け継ぎながら次の時代へと手渡していくための、静かな意思表示でもある。
※「現代の名工」 … 厚生労働大臣が卓越した技能を持つ職人を表彰する制度。
about
岐阜県高山市昭和町1-22-2(Google map)
岐阜県高山市花岡町2-18(Google map)
岐阜県高山市本町1-34(Google map)
③ 5月22日(金)
(スケジュールは変更になる場合あり)


















